野口整体を愉しむ(再録111)治療からからだ育てへ

治療からからだ育てへ

野口晴哉氏が長い治療家としての立ち位置を大転換して、からだ育てへと変貌していく時期に書かれたのが、以下に紹介する「40年の治療を捨てて」(「月刊全生」1964年3月号瀬田道場開館記念号)である。全国の多くの指導者の命を削るほどの努力による新道場建設を成し遂げた日の、感謝と晴れがましさと強い覚悟が息づく、素晴らしい文章となっている。

体癖の研究は頭で考え始めたのではない。多くの人を治療して、どうしてもその必要に迫られたからである。人間の千差万別から離れて普遍妥当を追うかぎり、個人というものはない。しかし、個人を対象としないかぎり、本当の治療ということはありえない。体癖を追求しているうちに、治療ということによって健康を得ようとすることは、迂遠なことだとわかった。しかし、このこと(治療)によって得た知識を活用すれば、病む人はなく、虚弱なひともいない世界を拓くことができることに気づいた。
そこで、治療ということから始まって、これを捨てたのである。40年続けたことを捨てるということは容易なことではない。しかし、もっと進歩した治療の道も、治療の要らぬ道も開かれたのである。潜在意識教育も整体指導法も人の内奥にある生の解明への道である。