野口父子の対話(21)腹部調律点(2)

 前回、晴哉氏の腹部調律点の理解について取り上げたが、今回は裕之氏のそれを私なりに模索してみたい。ただし裕之氏の内観的身体について殆ど何らの体感も認識も持ち得ていない現在の私には無謀なことは承知の上で、しかし私なりに前進したいという想いだけで試みることにしたい。お気づきの点やご批判をお寄せ下さることを期待しつつ・・・。

 前回のブログ公開から今日まで、合気道やその関連の動画等を集中的に検索してきて、もう一度裕之氏の『白誌』に目を通してみると、合気の理論と整体操法の理論とに幾つかの共通性があるように感じられてきた。たとえば相手に触れるという場合に、相手と自分とがどう同調していくか、ということを追求していくことでは両者ともに共通の観点に立っているのではないかということ。また、相手に何らかの操作的な行動を行う場合に、表層的な意識によるのではなく、深層的な意識レベルが重要視されているように感じること。また同じことだが、操作する対象が皮膚や筋肉といった表層に対してではなく、より深層にある骨格や靭帯、腱さらには体幹や重心や重心などに向かっているその類似性や、気とか力といった領域が操作上で決定的に重要であると考えるその観点の在り方の類似性があることなどなど。

 

 さて、今回のブログでは腹部調律点をテーマとして、主として腹部第三調律点についての裕之氏の記述から学んでみたいので、その前にまず腹部第三調律点、いわゆる<臍下丹田>について一般にどのような理解・説明がなされているかを取り出してみたい。

 

 合気道ではこの臍下丹田を次のように説明しています。(以下、『規範 合気道 基本編(植芝吉祥丸・守央)』より引用)

 ・・・ 合気道の動きの中心は人間の重心である「臍下丹田」と呼ばれる部分で、ここが合気道の動きにおいて重要な役割を果たします。臍下丹田をぴしっと一点に定め、ここを中心として大小さまざまな円を描き出すーそれが絶対不動でありながら自在な「気」の発揮につながっているのです。・・・(19)

・・・臍下丹田と呼吸の一致が重要になる・・人間の「気」というものは、宇宙全般に普遍的にある生命エネルギーなのである。合気道の丸い円の動きは、そうした宇宙の法則に逆らわない動きなのである。自分の呼吸を整え、そのリズムを宇宙のエネルギーに一体化させる。それは体の重心である臍下丹田をしっかりと押さえていくことで実現する。自分の中心が地球の中心に結びついていて微動だにしない。そうした安定感から「気」というものが出てくるわけである。・・・(12)

 

 次に甲野善紀氏が『剣の思想』(青土社)で、肥田式健康術の創始者肥田春充氏の丹田についての記述がありましたので、ここに孫引きしてみます。

 

・・・上体を真直にし、椎骨と薦骨との接合点に力を入れて反り、体の重さが両足の中央に、落つるように姿勢を執れ。薦骨の上端と、臍とを結び付けろ。さすれば其の直線は、地平に対して平行となる。

 鼻柱と胸骨の中央から、地平に対して垂直線を下せ。先の直線と臍の処で、直角に相交はる。薦骨の上端と、腹腔前方下部、恥骨縫際とを結べ。其処に直角三角形が出来る。

 其の各の角を、二等分した直線を引け。三点は一点で交叉する。

 其の点が即ち人間の体を、一ツの物体と見た場合に於ける重心、重点の存する所である。故に若し其の人間の体格が、完全無欠のものであるならば、鼻柱と胸骨の中央を通過して、此の点を含む処の平面は其の体重を二等分すると共に、全く相等しき二ツの相似形得ることが出来る。

 其の点を円心として、先の直角三角形に内接した円を描くことが出来る。

腹の前方に於ける所の接点 ー円周の垂直線に接した点ー それが即ち古人の所謂「気海丹田」の、科学的位置であって、臍下凡そ、一寸二分位の処に当たる。

 円を標準として、腹の中に球を想像する。中心力を作ると、球の表面から、球心に向かって、同一量の圧迫力が生ずる。かくして腹の中に、力学的無形の球の関係が生ずる。

 

では、いよいよ裕之氏による腹部調律点、特に第三調律点(臍下丹田)についての記述の世界に分け入ってみようと思います。

 

つづく