野口整体を愉しむ(再録25)整体操法の基礎を学ぶ(17) 一側の影響圏

整体操法の基礎を学ぶ(17) 一側の影響圏

一側の影響圏
一側は、呼吸器の問題、生殖器の問題、神経系統の大脳緊張の問題と関係がある。一側は正常の場合、七、八本の線をバラバラと感じるが、体が悪いと一本になる。あるいは全然触らなくなる。
外側の筋肉にある線は、二本ないし三本で、これはあまり明瞭でないが、異常で固まったりすると大きくて判りやすい。それで、これを一側と勘違いして操法することがあるが、効果の上では反応が鈍いというだけで、間違っていると否定しなければならないほどのものではない。
一側の異常をみつけたら、その固まっている処に愉気をする。その場合、骨の狂いが戻る方向に角度をとって押さえながら愉気をすると、変化が早い。指で押して戻すのだと思う必要はない。ただ、指の角度を決めるために骨の曲がり具合や位置を探る。下がっているものは上げるように、右に曲がっていたら左に行くように、斜めだったら左右斜めにはさむように角度をとる。愉気して感応、変化がおこると自動的にもとに戻っていく。

棘突起と一側
棘突起をしらべるのは、骨の位置異常の状態を確認するためである。骨を揺すぶったり触ったりするのは骨の可動性の確認のためで、正常に戻すためではない。
可動性の異常のある処を押さえると、過敏な処や、圧痛のある処、鈍ってしまっている処がある。可動性がありすぎる処は過敏、可動性が少し足りない処は圧痛、可動性が無いのが鈍りである。

呼吸器系統の異常と一側
呼吸器系統の異常は、胸椎三番から四番の間、頸椎の四番、腰椎の四番の一側に異常が出る。湿度が高いと急に体がだるくなる、足が重い、何となく気が冴えない、イライラするなどは、ここに異常のある人たちである。それ以外では、胸椎五番が捻れている人も同様の状態になる。こういう処に異常がある人は、湿気に侵されやすい、眠りが多い、食欲がない。ところがこれらの異常か所を整理していくと、なくなってしまう。腰椎の四番の異常から足が重い、体がだるいというのは本物だが、それ以外は関係がない。
胸椎五番と十番が一緒に捻れている場合は、だるいというより重いという感じになるが、その場合は一側というよりは二側の問題である。一側で判るのは呼吸器関係です。呼吸器の拡がりや縮みが悪いと、体がだるく、足が重く、気分が陰鬱になる。これは呼吸器を拡げればサーッと気分がよくなる。そのあと胸椎三番、四番の一側に愉気をする。あるいは脇の下の水かきのところをつかむ。(この脇の下の前後、および側腹は一側に関連)水かきが分厚くなっている人は、呼吸器が鈍くなっていて疲れやすい。また、現在疲れている人である。そのまま無理が続くと、体をこわす。
この呼吸器の委縮は、まず運動系の変化として現れ、特に腕の筋肉の力がなくなってくる。そして、特に明瞭なのは、鎖骨窩の胸に響く処が硬くなってくる。ここに固まりがあれば呼吸器に異常をおこしている。この処は前にもみたように、胸の脈管運動を支配しているところで、その鈍りにより血液循環が悪くなる。喀血したときにここを押すと、さらに喀血が増して悪くなってしまう。それは呼吸器の血液循環が増すからである。
脇の水かきと、鎖骨窩と、頸椎四番と、胸椎三番・四番、および腰椎の四番はいつも一組の働きをしている。呼吸器に故障のある人は、当然胸椎三番から七番にかけて過敏があり、特に棘突起に過敏があり、また一側に硬結を生じている。

消化器系統の異常と一側
消化器系統の異常で一側に過敏が起こるのは、大脳緊張に端を発した胃潰瘍の場合だけである。他にはボアス圧点といって胸椎の八番の二側に過敏痛が出る。また、食べ過ぎて胃カタルになると胸椎六番右の三側に過敏痛が出る。このように、消化器系統の問題で一側に異常が出るということはあまり無い。あるのは、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の時だけである。しかもそれらは殆どが神経系統の過剰緊張が原因となっている。大脳緊張による心理的影響か否かは、棘突起を押さえてみて、過敏があれば心理的なものが影響しているとみなすことが出来る。

大脳緊張異常と一側
棘突起と一側が呼吸器、生殖器および大脳緊張の異常に深い関りがあることは先に述べたが、特に三番から七番は呼吸器、一番から五番は神経系統つまり大脳緊張、胸椎十一番から下の一側が生殖器であるに対し、泌尿器系の異常は棘突起に異常は生じない。ただ特例として胸椎七番だけは棘突起に痛みを生じる、過敏を感じる場合がある。これは脾臓自体が拡がり過ぎている場合。これは、消化器系統が棘突起に影響する唯一のものです。潰瘍や大脳緊張で起きることもあるが、棘突起が直接痛むということはない。
だから棘突起や一側の知覚変化は。呼吸器、生殖器、大脳緊張の反映とみなしていいのであって、脾臓の場合の特例を除けば、それらへの操法が有効であると言える。
胸椎五番から上の一側が硬くなっている場合は、神経衰弱とかノイローゼというもので、外見からは見つけにくいものも、この一側を見れば判断することが可能である。

生殖器異常と一側
胸椎十一番に異常があれば生殖器の異常と考えていい。まれにここが硬直して可動性が無い場合があるが、その多くは生殖器の発育不全や性病などの異常に直接関係している。十一番を揺すぶってみればすぐに判る。ここは肋骨に繋がっていないから普通は一番動きやすい処です。それが硬くなっていて動かない。
腰椎一番は生殖器の知覚の異常、三番はその血行の異常が現れる。だいたい一番と二番、二番と三番がくっついている。二番の異常は、生殖器の知覚はあるが感情が一緒に動かない。一番と二番がくっついている場合、性欲が食欲に変化転換してせっせと食べる方ばかりにいってしまう。四番は卵巣や睾丸の関係。この可動性が悪いと子どもができにくい。ここは骨盤の開閉に影響を与える処。四番の調整で出産が軽くなる。分娩の際重要になるのは、腰椎三番と四番。
なお、生殖器系統にはそれ以外に、妊娠したときに仙椎二番を押すと痛みを感じるので、妊娠の圧痛点として確認に使う。
小便がつかえて出ないという時、排尿の刺戟点として仙椎の四番がある。腰椎の五番、仙椎の四番および左の内股というのが一組である。
十一番の一側は、呼吸器のように故障がそこに現われているというよりは、未成長とか中途半端な成長とか、偏って成長しているとかいうのが圧倒的に多く、生殖器自体の故障というのは比較的少ない。最近は、生殖器の発育の悪い人が圧倒的に多い、特に男性。

神経系統の異常と一側
神経系統の異常というのは神出鬼没で、いま緊張していたかと思えば、また弛んでしまうというように、なかなか判断しにくい。しかし、胸椎の五番一側から上が常時緊張しっぱなしになっている場合は、ノイローゼとかうつ病(統合性失調症)を疑う。極端にはしゃぐか、陰鬱になったりするかの、どちらかに偏る傾向がある。精神分裂を起こすような人に、この傾向が強い。胸椎七番が過敏な人は、抵抗力が弱く、病気になりやすい。七番の右の一側に硬結のある人は、丈夫そうに見えても、コロッと行く。こういう人は養生しないと長生きできない。
胸椎五番から上というのは頸椎部までを含む。一側の異常が頸椎部までつながっていても、頸椎二番(上頸の調律点)の処が硬くなっている場合は一概に異常とは言えない。これは何らかの事情で今頭がいっぱいの状態の為に固まっているからで、その逆にこの処が柔らかい場合は、体全体の異常が頭に行ってしまっている。そういう場合の、五番から家の異常硬直は神経衰弱症状に関連がある。
頭ではなく体の神経衰弱症状の場合には、特に頭がイライラしていないのに胃袋が悪くなるとか、ちょっとしたことで風邪をひくとか、咽喉が腫れるといったいろいろな肉体症状になる。

一側の硬結の見つけ方(練習)
最初から指で硬結を見つけてしまえるようなつもりでいるのは間違いです。硬直している処、固まっている処愉気していると、その下に硬結がでてくる。だから、最初は過敏か圧痛かを見つけて(これは相手が感じること)、その周辺から探っていったほうかいい。痛いというのは相手の感覚であって、こちらは可動性の変化でみていく。
はじめは難しいようなら、棘突起を押したときに、相手が痛いか痛くないかを聞いて、痛い処があったらその両側一側の硬直部を探して愉気してみる。愉気してスーッと押すと硬結にぶつかる。硬結はどこにでも必ずあるものではなく、なにか異常を起こしている時に生じる。だから若い人には少ないが、異常があれば子どもにも硬結がある。

硬結を見つけた場合の異常の見方
頸椎が一番難しいが、まず頸椎一番。これが狂っている場合は頭が妙なことになっている。相手が正気か否かはここで見る。ここが狂うと、脊椎全体の反射が正常に行われなくなっている場合が多い。ひどいのになると、逆反射といって、例えば胸椎五番が飛び出してくれば空腹となるのに、満腹になっているのにいくらたべても空腹を感じる。あるいは、同じ愚痴を何度も繰り返すというのも一番の狂いによる。
頸椎二番は、熱がなかなか下がらない、とか原因不明の高熱がでる場合。また、ヒステリーの過敏症状。頸椎三番は、原因不明の発熱、鼻の粘膜の故障と関連。頸椎四番はしゃっくりを止める。肺気腫の喘息を止める。ただし、気管支喘息のばあいに四番を弄ると余計悪くなるので注意。頸椎の五番、六番、七番は咽喉。七番は迷走神経で、胃袋や心臓に関係。だから、脚気の異常が七番を正すことにより消失がしたり、心悸亢進がここのショックで止まるということもしばしば起こる。お腹にガスがたまっている時に、七番一側の硬結を処理すると、げっぷが出続けて解消される。七番をショックすると近視の人が一時的に見えるようになる。七番をこするように叩くと、喀血が止まる。なた、腕の挙がらないのが挙がるようになる。
原因の判らない、変動の激しい異常があった時は、本来なら頸椎の一番、二番、三番と調べていくのが順序だが、実際には頸椎の一側はとても難しい。頸椎の一側の説明と使い方の詳細は、この講座がもう少し進んでから行うことにする。

胸椎の一側
胸椎の一側は、気管および気管支との関係。むせるような咳、なかなか切れない痰、子どもの百日ぜきの喘息、むせて吐き気を伴う咳、みなここに硬結がある。腕にも関係するが、腕の場合はむしろ二側に関連し、一側は気管支と考えていい。
二番も気管支だが、痰の切れない系統。
咳の聞き分けで、一番は胃袋関係で、吐き気を伴っている迷走神経の咳。二番は泌尿器系統の咳で、当人は咳をすると実感するが、肛門と会陰部の中間が緊張する。二番の咳は前立腺のある処が縮む。そこをジーっと押さえるとその系統の咳は止まる。老人の咳にはこれが多い。われわれはこの咳を「小便の咳」という。
二番のそれ以外の咳としては、肝臓の異常で咳が続く場合、これは二番の右一側に強い硬結がある。喘息のようにみえるが、腎臓や肝臓の処理をすると咳がなくなってしまうことがある。
一番は迷走神経の咳で、咳をしているうちに頸の胸鎖乳頭筋が緊張してくる、そういう咳で、別名「ヒステリーの咳」というが、精神的な欲求不満や性欲の欲求不満が咳に化ける。
三番は肺。肺結核でも、ジストマでも、肺気腫でも、みなここに異常を起こす。主に肺の拡張反射であり、頸椎四番は収縮反射である。肺に異常のある時は三番か四番のどちらかに過敏を生じるが、四番に過敏がある場合は、あまりいじらなくても回復していく傾向にある。三番に過敏があるときは、いじってはいけない、急速に悪くなる。レントゲン撮影のすぐ後に、三番に過敏が現れることがある。これはレントゲン自体が肺に悪影響を及ぼしたためといっていい。
結核で三番に過敏のあるものは警戒を要する。四番が過敏の結核は安心してていい。四番が陥没しているような時は、食道に異常を起こす。食べ物がつかえる、食道がん
食道の伸び縮みが悪い。その他、呼吸器関係では、八番の肋膜がある。肋膜の水は抜かない方が回復にはいい。熱が高くなると抜きたくなるが、肩甲骨をはがすように八番を押さえると水はなくなる。すると八番棘突起の過敏が急速になくなる。
五番から七番も呼吸器に異常があると過敏がでるが、それらは神経系統と一緒に混じり合っているから、見分けが必要になる。神経系統の過敏の場合は、一側全体に張りがあるというか、特殊な緊張がある。呼吸器の場合にはそれがなくて、骨がはっきり見える。骨が飛び出しているように見える。一側を触って、緊張のある場合は頭、くっきりと飛び出して、それが全く萎縮しきっていれば呼吸器系統というように区別する。

麻疹(はしか)と結核
麻疹のあとに胸椎三番、四番が過敏になることがある。麻疹のあとは結核に弱い。そのように三番、四番に異常を起こした場合は呼吸器関係と考えていい。麻疹の前に目に星が出来たという場合も三番、四番が痛くなることがある。これは三番、四番に愉気をすると、その星もなくなる。この場合、三番の過敏は押さえても大丈夫のようです。つまり、一側に緊張がある場合は押さえても大丈夫ということです。星は神経系統の異常か結核の異常か、なにかそういったようなもので出るのだろうが、体験的には愉気をするとすぐに目の星はなくなる。
肺臓運動に関する異常は、必ず胸椎三番、四番に変動が起こる。気管や気管支は一番、二番に変動が起こる。肋膜は八番。それぞれ一側に現われる。
観察の際には、骨の運動異常の焦点が胸椎の一番から八番にある場合は、呼吸器に何らかの異常があるのではないかと考えながら行う。それが肩の変動の場合でも、頸の胸鎖乳頭筋の変動の場合でも、呼吸器の関係を考えるように進めていくといい。