野口整体を愉しむ(再録91)「整体操法高等講座」を読む(7)圧痛の呼び起こし

整体操法高等講座」を読む(7)圧痛の呼び起こし

前回のワープ方式、ノート形式だと、要点の記録だけになってしまい、野口氏の講義に流れる<時間>の経過やその<空間>のざわめき、野口氏の豊富な事例のリアルさや、話された言葉のニュアンスなどが全部吹き飛んでいってしまうことが分かる。これではせっかくの<口述記録>の持っている価値の多くが失われてしまう。やはり、これ以前の方式に戻した方がよさそうです。今日の講座の聞き所は、ヘッド氏の知覚過敏帯についての野口氏独自の整体的解読と、<頸上>の操法の実演・実習にあるように思います。では、今日も私的要約を始めます。
なお、蛇足ですが、筋肉についての名称や構造などについて殆ど知識のない私は、最近購入した『プロが教える筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典』(ナツメ社刊 2018 荒川裕志、著 )を参照しながら、学んでいます。

整体操法高等講座」を読む(7)1967.6.5
「圧痛の呼び起こし」
前回、棘突起で<圧痛>を呼び起こすということに少し触れましたが、この方法によって、体のいろいろな状況を推察することが出来る。つまり圧痛が生じた処と関連する部分の働きが悪くなっている。
ヘッド氏の「知覚過敏帯」の図に示されているように、それを類推できる。
まず圧痛の部位としての最初の問題は、手や足などの随意筋の問題です。
たとえば胸椎六番に圧痛があった場合は、乳の下の筋肉に硬直があり、伸び縮みが悪いというようにその「知覚過敏帯」の図を使っ類推していく。
あるいは、上腕筋が硬直して細くなっているという場合に、胸椎二番の圧痛を整理すると、ここの筋肉が弛んでくる。神経痛やリュウマチの場合は勿論ですが、そうでない場合でも、こういう処の異常が却って他の臓器に関連していることがある。
以前、右の足首と胃袋とは関連していることを説明しましたが、右の足首はL5、足の指はS1と関連があります。そうするとL5やS1は直接には胃袋には関連していないにもかかわらず、足首の変化および足の指の変化を介して胃袋、消化器に影響する。
足の人差指の根元の処が食中毒と関連があるということや、足首の緊張の悪いのが生殖器や胃袋の働きと関連があるというのはそれであります。
そういう場合も、L5やS1は、足首とか胃袋とか肝臓(中毒)とかには直接関係がないはずですが、そういうところを経由して関連している。足や何かに異常な硬結があった場合には、臓器と何らかの関連があるかもしれない。
そこで、そういう場合には元の脊髄まで辿っていって、その脊髄の変化から見ていくと判ってくるし、そういう処の硬直は圧痛の呼び起こしに成功すると弛んでくる。
たとえば乳の下の筋肉が硬直している場合に、D6の圧痛の呼び起こしをすると弛んでくる。あるいは腕に力が入りっ放しにって抜けない時、C1,C2を処理すると弛んでくる。
このように、圧痛の呼び起こしに成功すると、その脊髄の末端の随意筋の部分が弛んできます。
そういうことと、体のある部分の使い過ぎと、臓器の関連を探していけば、こういう疲れ方をしている時はこういう処の異常があるということが判ってくる。
肩の筋肉が硬直している、それはC4である。C4は肺の収縮で、それが妨げられている。 つまり、肩の硬直と呼吸器の異常とには椎骨を介して関連があるということになる。
こういうように、椎骨と末梢の筋肉との繋がりを丁寧に見ていくことが大事です。だから、「知覚過敏帯」の図は、常に頭の中に入れておかねばならない。
D9とC4なら<中毒>である。<糖尿病>はD5とD7に関連し、D7が主体である。
D3とD4の過敏は、迷走神経の過敏、迷走神経の張力と関連している。

◆「圧痛の呼び起こしによる変化の処」
D 1 上肢
D 2 上肢、(右)肝臓、胃粘膜、(左)心臓
D 3 
D 4 (右)肝臓、(左)心臓
D 5 胃、十二指腸、咽喉、鼻粘膜、聴覚
D 6 胃、膵臓
D 7 脾臓膵臓
D 8 胃、肋膜
D 9 胆嚢、(右)肝臓、(左)胃
D10 腎臓 
D11 胃、卵巣、膀胱、小腸
D12 大腸、生殖器
L 1 生殖器の知覚、胃・腸の収縮
L 2 臓器の下垂、胃・腸の収縮
L 3 生殖器の血行
L 4 卵巣・睾丸・腸の弛緩、骨盤神経叢の血行
L 5 膀胱・尿道生殖器内の粘膜、骨盤神経叢の血行
S 1 ~5 生殖器
S 2 関節、十二指腸潰瘍、火傷
S 3 
S 4 膀胱括約筋

食欲がない、という場合、D5、D6およびそれらの間に圧痛が出てくる場合は、胃袋の働きが活発に行われていない、というか食べた分だけ働いていない状態。
胃が働かないという場合は、むしろD11、D12に関連がある。
胃が働きすぎているという場合は、腰椎と関連がある。
L1は、胃や腸を縮める働きがある。だから胃が痛いという場合、胃袋の働きを弱めればおさまる。胃袋が縮む(縮むから痛い)のを妨げるわけです。そのために、拡張中枢であるD11を刺戟すると、胃の痛みはなくなる。
ところが、ついでにとL1を押さえると、また胃が痛み出してくる。
痛みを止まりきりにするためには、L1を押さえてから、D11を押さえる。

「知覚過敏帯」の図で、脊髄の反射する機能を知って、<操法>に役立てることが出来るだけでなく、<操法の順序>を作る際にもそれを参考にすることが出来る。

L1、L2は胃袋や腸の収縮。L1、L2、L3は尿、脱糞、生殖器の勃起、射精、あるいは子宮の働き、子宮の粘膜の変化、あるいはL3は形の変化を示します。L4は卵巣および腸の弛緩、L5は膀胱、あるいは尿道、あるいはそれに関連のある生殖器内の粘膜。
L4・5は主に骨盤神経叢の血行に関係があると考えればいい。
仙椎部はほとんど生殖器の反射、ただ仙椎部で特殊なのは、S2は関節と十二指腸潰瘍に関連がある事である。またここは、火傷の場合の特殊な治療点にもなっている。
S4は時に膀胱の括約筋に関連があり、ここに異常があるために夜尿症を起こしていることも少なくない。
心の状態でいえば、L4は不決断状態、特にL3と一緒に変動していればそう考えていい。L1は理由なき焦燥とか、絶え間ない妄想状態。L2は、何となくイライラした状態。

こういう関連は、圧痛点を呼び起こして、あるいは過敏点を呼び起こして、それに成功した場合に判るもので、そうでない時はそういう関連を類推することはできない。
圧痛があるところは、長い間、臓器や脊椎、あるいは筋肉の変状が持続していたところです。だからそういう変状が、心理作用にも影響を与え続けていると言えます。

さて、今日の説明には<頸>(くび)には触れてきませんでしたが、それは胸や腰などよりも、もっと複雑な<関連>というものがあるためだったのです。
<頸>は、「心と体」とが一つになって働いていく場合の重要な中継地点でもあり、<頸>が強張ると、心と体がうまく連動できないで、病気になっていたずらに焦ったり、逆に体の異常を頭にうまく伝えなくなったりします。
それから<頸>の状態は、腹部の状態と同様に、<体力>の象徴の場所でもある。しかも「生きている」ということに直接つながっている場所でもある。
<体力>が弱ってくると、どこよりもまず、後頭部から<頸>にかけて鈍ってきます。後ろ姿が何となく寂しく見えるというのは、そのためで、後頭部と<頸>が痩せてくると<体力>が無くなってくる。がっかりすると<頸>の力が抜けてしまうけれど、緊張していると<頸>はしっかりしている。つまり<体力>だけでなく<気力>にも関係している。
だから<頸>の操法というのは極めて重要なものだといえるのです。
<頸>に異常が生じると、足が細くなってくる。病気で寝込んで床擦れが出来るというのも、<頸>の故障と見ていい。<頸>を治すと、床擦れも良くなってくる。
がっかりした時に、足がだるくなるというのも、<頸>との関連と見るべきです。

<頸>を操法する時は<頸椎>が中心です。<頸>を柱のように考える人がいますが、むしろ<鎖>(くさり)と考えた方が実態に合っています。<頸椎>の正常な位置を保たせているのは、神経や筋肉の張力によっているのであって、頸椎自体の問題ではないからです。それは迷走神経の張力の問題です。
ところで、<頸椎>に分布している神経系統の影響というのは、全身に及んでいますが、迷走神経もその一つです。そして<頸椎>の1,2,3,6,7番を刺戟すれば、迷走神経の張力は亢まってきます。ところが「胸鎖乳突筋」そのものを直接ゆすぶって刺戟しても、同様に迷走神経の張力は亢まってくるのです。しかも<頸椎>の刺戟よりも亢まりの度合いは強く早い。
こういうことは、他にもいろいろあって、<頸>と関連しているから<頸椎>だけ操法すればいいとばかりは言えない。頸椎以外の関連する場所を操法した方が早く良くなるというものもある。だから、<頸>の問題は複雑なのです。

<頸>の操法は、非常に重要で、<胸椎>の9-7-8番の操法(いわゆるパカパカ)と一緒に行うことは、われわれにとっては<秘伝>と言ってもいいものです。これは、鈍った体の神経全体の働きを亢めることができる技術で、最近のストレス学説で説かれている症状なども、これによって対応できるのです。
ストレスによるいろんな症状は、みな「胸椎の9番、7番、8番」と<頸>との関連と考えていいのであって、われわれはストレス学説の出る何十年も前から、「<頸>の操法の持つ特殊性」に気づいていて、これを使ってきた。
血圧を下げるのも、喘息を止めるのも、肺気腫を治すのも、肺炎をよくするのも、風邪を抜くというのも、寝小便を治すのも、泌尿器の異常を治すのも、皆<頸の操法>で対処してきたのです。
そういう意味で、<頸>は非常に応用範囲が広く、それはほとんど全身にまたがっている。

ところが、<頸の操法>は難しいのです。今の皆さんの練習状態では、まだとてもお教え出来ない。お腹の操法でも同じで、恐くて見ていられないのです。一度、京都での高等講習会で説明したことがありましたが、押さえられたあとに痛くなったとか、尿が出なくなったとか、つぎつぎに毀して、もう見ていられやしない。それでその後は一回も頸とお腹の操法はやめてしまいました。講習会で<頸の操法>など持ち出したら何が起こるかわからない。
今日、それを持ち出したのは、テストケースとしてなのです。<頸>は締められればすぐに苦しくなるし、間違えればすぐに毀れてしまう。だからお互いに警戒して、警戒しながら押さえ、力を強く集める為にも、相手が力を感じないように柔らかく押さえるということを逆に身につけやすいのではと思ってのことです。だから、練習もおっかなびっくり使っていただきたい。それに講義ばかりで、実習が伴わないのは問題でもあるので、ぼつぼつ実習も始めたいとも考えたからです。

(実演)
ちょっと頸を貸してくれませんか。操法で<頸>というのは、大体頸椎の七番から<頸上の三>までを指して言っています。さらに胸椎の二番まで広げて、それを<頸>と見ます。頸椎二番まで広げるのは、腕の運動は絶えず胸椎の一番、二番を経由して頸椎に影響を及ぼしているからです。<頸上>というのは、一番からラムダ縫合部までのことですが、それを三等分して、一・二・三と呼んでいる。
まず頸椎の一番ですが、これには棘突起がありません。その上部の<頸上>から胸椎の二番までを、一応操法するうえで<頸>と認めて説明します。
体の異常が頭にいつも感じるという場合には<頸上>の一、二、三の中の特に二、三が関連しています。つまり頂靭帯が緊張過度になると頭痛、頭重がします。

練習
頭痛、頭重を治すのには<頸上>の二、三を押さえまして、それから外へ外へと辿っていってそれから胸鎖乳突筋へ入ります。酔っぱらって醒めないような場合も同じくこれです。
頂靭帯を押さえる場合に、頸上の一番、二番、を押さえます、上に上げます。みんな後頭骨が下がっています。この後頭骨を上げるように三、二、一と押さえていきます。
たとえば、一番だけの場合でも、三、二、一と押さえ、押さえる度合いを目標以外は簡単にしたらいい。
三番に至ってずっと上に上げ、頭皮をずらすように押さえます。一緒に頸の筋肉がくっついて上がります。その場合に、肩の筋肉が緊張し伸びるように押し上げることがよろしい。
<頸上>は下から一、二、三と数えます。そして上に上げるように押さえます。肩の筋肉も動いてくるのが正常で、ここに異常がいるとこれが動かない。
動きが鈍い場合は、これに沿って頸を押さえていきます。頸椎よりずっと外側です。そーっと押さえます。強く押さえてはいけない。
押すときは、真横にではなく、横に押しながら斜め前に、強い力でも柔らかく、ここへ来まして、これから今度は前に、そうして胸部活点、これを痛くなく押さえなくてはならない。
風邪を引いて頭痛がするというのは、みなこれが閊えている。粘膜が悪くなって、脈管運動がつかえる。
頭の血の降りが悪いとか、勉強して次の転換がきかないとか、心の転換がきかないとかいうのもこの閊えです。
ここの筋肉が硬くなって、萎縮している人達は、常習的に頭の血の帰りが悪い。ここをジーっとしばらく押さえる。押すのは内側ではなく、外側です。外側をちょっと内側に向ける。胸に響くところではない。押して腕に響くところで、これは二番までの筋肉が変わってきます。
ここだけ押したんでは駄目なんです。頭の方の変化がないんです。
頸上から押さえていく、頸上の三番を押さえてから、その次に外へ、外へ、外へ、下の方向へだんだん外側に押さえていって、中に入る。
まず、ここまでを二人組になって覚えていただきましょう。

頸の左右を触ってみて、動きの悪い側を対象にしてください。大抵は、肩の凝った感じのある側でやってみましょう。
やる前に、まずご自分の頸をそーっと触ってみて、そこを強く触っても苦しくないという度合いを確かめてからやって下さい。
自分でやってからだと、他人のがやりやすくなる。
ただ、やり過ぎると吐き気が起こりますからそのことは御承知ください。

はい、<頸上>の一、二、三ときたら、次に<後頭骨>を上げるように、上げるように押さえます。そして乳嘴突起のところから下へ、乳嘴突起に副って押さえる。その中のどこかを押さえればいいので、全部押さえるのではない。

それから<下頸>の操法をする。ここは、こういう角度だと相手は逃げないんです。押さえなくても逃げない、ここでは逃げる、ここでは逃げない。この逃げない位置で押さえる。相手が不安定な位置のほうが、操法は割に変化します。
安定した位置でここだけやると、ここの部分だけ押された感じになる。
それを逃げない位置で押さえると、自分で逃げようと、元に戻ろうとしているから、体じゅう押されたのと同じになる。そういうことが、体じゅうに影響してくる。
不安定になる程、影響してくる。
このように<下頸>を押さえます。

その次は、<喉>の操法
顎のこれです。これを前から押していく。両方一緒にやってはいけません。両方一緒にやると死ぬことがあります。首を絞められて死ぬという場合、窒息で死ぬというより、ここの副甲状腺を毀してしまうのです。
これは、みなさんが上手になって、一番最後に説明しようと思いますが、ここは顎からこう押さえて喉の真上までいきますが、こう触っていって、一か所の悪い処だけを押さえる、それだけです。ただこれは他の場所と違って恐いです。もっと上手になってからじゃないと難しいですので、練習はここか、家族で留めておいてください。
(終)