野口整体を愉しむ(再録32)整体操法の基礎を学ぶ(24)腹痛と腹部調律点

整体操法の基礎を学ぶ(24)腹痛と腹部調律点

I先生、「お腹には、第一から第四までの調律点があることはすでに見てきましたが、その他にも恥骨の角、側腹、臍の周囲、痢症活点などがあります。今日は、それらについて説明し、練習を行いますが、今日の講義をもって、操法の型は一通り終えることになります。次の問題は、それらの型を実際の場でどのように使っていくかという応用の段階になってきます。まだ今のあなたたちの習熟度ではその段階に入って行けそうにありません。
機会があれば、これまでお教えした続きを行ないたいと思います。その時期がくるまで、型の問題、処の問題、気の問題を充分に体得しておいて下さい。それらのことを、頭ではなく、体で理解していないと、その後の段階のすべてが、絵に描いた餅、単なる整体操法研究といったものになってしまいます。
充分に体得できたという目途がついた人は、またお集まりください。続きをやりたいと思います。では、今日の講義を始めます。」

腹痛について
普通、お腹が痛いとき、どこが痛いのかはじめのうちは判らないが、だんだん痛みがおさまってくると、臍の周りが痛くなってくる。激しい痛みの時はみぞおちだけが痛くなる。落ち着いて来ると、悪かった処に痛みを感じだす。だから相手が、お腹が痛いと言っても、「ここが痛い」と場所を特定できる時は、押さえればそれっきりおさまってしまう状態です。どこが痛いか特定できない、ハッキリしない時は、これからさらに進むのか、逆に良くなっていくのか判らない状態です。快方に向かう時は、臍の周りが痛む。悪い方に向かう時は、鳩尾のあたりが痛くしめつけられるようになる。
これらはお腹の異常の場合に共通の感じであるから、まずそのことを憶えておくこと。

お腹のどこが悪いのか判らなくて、とにかく痛いという時は、剣状突起のすぐ下を、相手が息を吐くごとに押さえる。押さえて弛めないまま、相手が息を吸える程度に少し弛めて、吸ってきたらまた吐くにしたがって押さえていく。三回ほど押さえていって、最後に出来るだけ下まで押さえて行って、それを保つ。そうするとお腹がドキドキと動いてきて、お腹の運動になる。それを越すと後は、快方に向かう場合は上は柔らかになり、腹の下の方は力が出てくる。悪い方向に向かう時は、上がいよいよ激しく痛む、こういう時は警戒を要する。

腹部の観察(練習)
今回は、お腹の異常を整えるということではなく、お腹の能率、お腹の働きを高めていくという目的で押さえていきます。

第一調律点 
この処に第二指、三指、四指を当てて、もう一方の手をその上に重ねます。そしてこちらの体を前に出すようにして押さえていく。最初は、相手の息と一緒に吐かせ、弛め、吐かせ、弛め、というように押さえていく。だんだん押さえている時間を伸ばしていく、戻すのを遅く少なくしていく。三回押さえたら、静かに放す。
それからそのままズーっと押さえていく。前より強く押さえる。その時、指を立てて押さえないで指の腹で押さえる。またm押さえると言っても、指の力で押すのではなく、体を前に倒しながら体重を乗せていく感じで押さえる。尖った指で押さえると、あとでお腹が痛くなってしまう。

お臍の周囲 
お腹が動くようになったら、お臍のまわりを一回り、お臍に向けて押さえていく。上の方は上腸間膜神経の刺激、下の方は下腸膜間神経を刺戟する。

第二調律点
臓器が下がっている時にだけ使う。

第三調律点
お腹全体の力、つまりお腹と体との関連、体力状態に関係している場合だけここを使う。それ以外は、第一と臍の周囲だけでいい。操法全体の中で、腹部操法は一番大事な処である。他の処は、みな骨があって臓器に触れることは出来ないが、お腹だけは骨がなく、直接触れられるようになっている。お腹の操法をすると、お腹だけでなく、体じゅうが良くなってくる。お臍というのは面白くて、人によってみな違う。丈夫な人の臍は上を向いている。弱い人のは下を向いている。体の捻れている人のそれはやはり捻れている。お腹の操法は、お腹自体のために行うというよりは、その人の体の象徴を調節するために行うと言うことが出来る。お腹は人間の体の中心と言える。だから、体に力がなくなると、お腹にも力がなくなってくる。昔の人は丹田に力があれば健康だ、と言っていたが、丹田というのは解剖してもどこにあるか判らないが、動作をしてみると、そこが人間全体の行動の中心になっていることが判る。よく、腹でやるとか、腰でやるという言い方をするが、ほんとうは腹と腰のちょうど中心の、この丹田で動くということを表現している。整体操法するときも、すべてこの中心の力を使ってやるのです。死んでしまえばこの中心、丹田というものは必要がなくなってしまうものですが、人間が生きて、直立して、行動している限り、この中心がしっかりしていないと、動作もしっかりしないのです。

痢症活点
ここの押さえ方は、押さえたものを、臍の中心に向けておさえます。ここは、硬結の有る無しに関係なく、ただジーっと押さえて愉気するだけでいい。

上腿部外側一、二
お腹の操法のあと、この上腿部を押さえて愉気しておくと、異常がはやく経過し、良くなる。

お腹を押さえていると、お腹の左右に大きさの異なっている場合がある。小さくなっている方は硬くなているが、その同じ側の頭部第二調律点をトントンと叩いてみると、だんだん弛んで大きくなってきます。頭が疲れてくるとお腹も縮んでくるのです。この意味では、お腹と頭とは関連しあって一つのものだと考えていいわけです。呼吸器の異常でも、どこの異常でも、そこが良くなるとお腹で呼吸するようになります。だから、健康状態とお腹の状態とは非常に関連している。整体操法をした結果、お腹で呼吸が出来るようになれば、うまくいったと言えるし、そうでなければうまくいっていなかったということが言えます。

第四調律点
ヒステリー状態や、胃痙攣、胆石、心悸亢進、背骨の硬直、気絶といったもの、あるいは泣いたりわめいたり、激しい耳鳴りなど、いろんな状態がありますが、それらには全て、この第四調律点と第一第一調律点の処の間のどこかに玉のようになったこわばりが生じています。この球状のものをちょっと押さえて愉気をして、お臍の方に持ってくるような感じでジーっと愉気をしていると、これらの発作症状がおさまってきます。

子どもに対するお腹の操法
子どもの場合は、お腹と頭に愉気をして、お腹で呼吸できるようになれば良くなった、良くなっていないうちは絶対にお腹では呼吸しません。子どもの体のどこかに異常がある場合、子どもがどこかを特定できなくても、お臍の周囲を触ってみて硬くなっている時はどこかに異常があると推察できる。背骨を確かめて異常がなくても、あるいは本人に自覚症状がなくても、お臍の周りを触って硬くなっていたり、痛がるところがある場合は、異常がある。

自分の腹痛を操法する場合
自分の腹痛を、自分で操法する場合、例えば左側が痛いときは右側を、その逆に右側が痛い時は左をジーっと押さえると、ほとんどの場合良くなってくる。つい痛い側を押さえてしまうが、それを我慢して反対側を押さえると、非常に早く良くなる。

腹部操法の効果
整体操法では、腹部第一、お臍周り、痢症活点を良く使うが、その際、両手で観察しながら行います。首に当てた左手で操法の度合いを見、右手で腹を押さえます。左手で押さえた度合いを確認しながら操法するわけです。うまくいった場合は頸が弛んでくるとともに、引き締まりも出てくる。
整体操法というのは、大雑把に言うと。背骨ばかり操法していると相手は痩せてきます。逆にお腹ばかり操法していると太ってきます。そういう傾向があります。太らせるための方法ではないが、体力を充実させるのに役立っている。
背中のあっちこっちを押したりするのは、言ってみればこけおどしみたいなものである。もちろん、一時的に痛みを止めたり、体を楽にするという場合に便利であるのは確かだし、体の異常のある処をスパッとつかまえるという場合には便利で、そのことによって相手の感受性を高めていくという面では可成り役に立っているが、操法の実際の効果という面から言うと、腹部操法愉気に優るものではない。それらには圧倒的な効果がある。だからこそ、腹部操法は身を打ち込んでやってほしい。背骨を整理するだけで効果があげられるようになるのは、十年とか二十年経ってからのことである。下手なうちは、とにかくお腹に狙いを定めれば、たいていは間違えない。
ここでの腹部の練習は、場所を憶えるためや、触った感じをつかむためにちょっと強めに押さえていますが、実際の操法では、ちょっと押さえていく程度でいい。何度も言っているように、指で押さえるつもりでいるうちは、効果をあげられない。腰とかお腹とかで押すのでもない。ともかく、物理的な力で相手を変えようとする人たちには理解できないことですが、すべて気で押すのです。あるいは気で引くのです。指に気を通して押すのです。押し方の問題ではないのです。押し方の問題だと思っているから出来ないのです。気を感じ、気で押さえる。これだけです。

操法した最後に、お腹に力を入れてギューッと押さえて、ポッと放す、というのが整体操法の締めくくりですが、お腹と頭の関連性をよくみながら、練習に励んでください。
これで、一連の講義を終わります。最初に言ったように、学んだこと練習したことを繰り返しおこなって、十分に体得できたと思う人は、またここにお集まり下さい。