野口整体を愉しむ(再録21)整体操法の基礎を学ぶ(13)体の読み方

整体操法の基礎を学ぶ(13)体の読み方

「今回から11回にわたり、触手法、呼吸法、処などを一応マスターした準段位程度の者を対象に講義、実習を行う。今回以降の内容は、各処(ところ)の具体的な使い方や矯体操法のやり方など、細部に入っていくので、たとえ練習といっても、度が過ぎると体を壊すことになるので、十分に注意して真剣に行ってもらいたい。一回当たりの練習時間を長くとらないこと。」と、I先生。広い和室に、ピーンと緊張感が走る。さらに「今回のシリーズを終えた時、三段以上の実力がついていることに諸君はきっと驚くであろう」と付け加えられた。期待感と不安がないまぜの内に講義は始まった。

体の読み方
錐体外路系運動が敏感で、生きていくうえで養生も何もいらない体が、体力のある体である。体が外部からの刺戟に敏感に反応できる処は正常であるが、何かの理由でうまく反応が出来ないとか、逆に反応が過敏に行われてしまう処は異常である。反応の鈍い処は硬くなっており、筋肉のなかに硬結を生じる。
今の段階では、体のどの部分が過敏か、弛緩か、鈍りかという三つの状態を見分けられればいい。反応が鈍ってくると筋の緊張も鈍ってくる。だから筋肉の弛緩した状態の処を探せば神経系統の弛んでいる処も一緒にわかる。多くの場合、この弛緩した処が異常のある処で、その弛緩した中に小さな塊り、硬結がある。これは小さいほど鈍りの度合いが強い。そこまでいかないものは、熱くなって細い線になっている。それは多くの場合、過敏のところで、押すと相手が痛く感じるからすぐに判る。
筋肉の弛緩したところを見つけて、その中にある硬結か、過敏を見つけ、その硬結のある場所によって、どこに異常があるか、というように体を読んでいく。
硬結のある処は、そこが多く使われている処であり、あるいは多く使われている処の反射によってそういう印が出ている処であり、いずれも偏り疲労と関連している。
観察に慣れてくると、その人の体の使い方や運動の仕方を見ただけで、体のどこに硬結が生じているかの判断ができるようになる。
たとえば、左足を後ろに引いている人は、左足に重心をかけている。すると腰椎の二番の右側に力が入る。だから腰椎二番の力のかかり具合を見ることで、その人の重心の位置を推測できる。
正座したとき、右の膝を開いている人は、開いた分だけ右の骨盤が縮んでいることを表している。そこが縮んでいるから無理に広げようとしているわけである。
立ち上がると、右の腸骨が狭い、という場合は、腰椎の四番の右のどこかに異常がある。腸骨が縮んでいると、同じ側の肩も下がっている。肩まで影響がでてくると、胸椎六番にも異常が生じてくる。そして腕に異常があれば胸椎四番、食いしん坊なら胸椎六番、働き者なら胸椎四番、そして四番の異常なら頸にも異常がある。そういうように体を調べていく。
まず相手の姿勢からどこに異常があるかを推測して、そのあとに実際に触ってその推測が確かだったかどうかを確認する。

実技練習 引き算としての異常の推測
愉気で相手の二側(手を揃えて、人差指を背骨にあてたとき、中指の処)を上から順に押さえていく。そして二側の弾力に異常のある処を見ます。弛緩した処、または弛緩してその中に硬結のある処を見つけたら、棘突起を押さえてみて、そこが鈍っているか(麻痺)、痛みがあるか(過敏)を確認します。押して弾力があれば、そこは見逃せばいい。体癖的な偏り疲労をまず処理してからでないと、余分な異常まで見つけてしまうことになる。

左右に体癖的偏りがある人の異常の推測
伏臥で、右足の力が抜けない、左足が短くなっている。この場合、右の尻が小さく、左の尻が大きい。こういう時は、腰椎二番に異常があるか、腰椎三番が捻れている。そして腰椎二番から上は、逆側に緊張が出ている。これを観察するときに、腰椎の三番から上は左側に異常があり、そこから下は右側が異常である、という風に見るのでは異常をみたことにはならない。こういう場合には、腰椎二番から下で左側に異常があるのが本当の異常なのです。
体に左右差がある場合、首の位置を変えて変化があれば、それは胸椎五番から上に異常がある。変化がなければ、骨盤の異常である。胸椎五番から上に異常をみつけたら、腕の位置を見る。両腕を体にくっつけるようにすると、だんだん変わってくる。さらに腰椎一番を揺すぶってみる。そして肩の位置を変えてみる。肩甲骨の外側を押さえてみる。あるいは、足の薄くなている側、つまり力の入っている側を、くの字に曲げてストンと落としてみる。手の方にも影響が出ている時は、足を曲げて手前に引っ張りながらストンと落とすと、胸椎五番から上にも変化が出てくる。
これらは、左右型や捻れ方の場合に使います。これらによって、体癖的偏り疲労を予め処理して初めて、本当の二側の異常を見つけることが可能になる。
このように、二側の弾力の異常を観察するという場合でも、単に指の当たっている二側の部分だけに注意するのではなくて、相手の体の全体との関連に注意しながら見ていくということが必要になります。

正座やお辞儀の癖による異常の推測
左右型は、重心側の膝を下げているか、それを外側に開いて正座をしている。そしてお辞儀をするときは、重心側に向いておじぎをする。捻れはその逆になる。上下型や前後型は手を前に出してお辞儀をする。開閉型は、肘を張っておじぎをする。
立ち上がる時は、重心側から立つ。歩き始めは非重心側から。階段の上り始めは非重心側からになっている。前に重心のある閉型の場合は、つま先だけで階段を上がっていく。重心側は、膝から下が太くなっている、またその側の尻が小さい。またその側の胸が厚い。顔も目も、重心側が小さい。首を重心側に傾けているのは捻れ型である。
伏臥で、片側の足に力が入りっぱなしの人は、左右型か捻れ型である。足先を重ねているのは、前後型か上下型。足先を、外に向けているのは、向けている側の腸骨が縮んでいる。閉型は、体が弛むと両足共に足先を外に向ける。同じことを、緊張しているときは閉型以外の他の体癖の人もする。
このように、相手の姿勢や動作から、伏臥になった時の形を想像し、それから背骨を調べた状態と比較して異常箇所を見つける。大抵は一、二か所である。その一か処をつかまえると、相手は満足感というか、フーっと呼吸が変わる。そこに息がつまっていたのがフーっと弛む。そういう弛みの出るような処をピタッと捕まえた時は、操法のしやすい時です。
開閉型で右に捻れている人がいるとします。こういう人が太っているとすると、開型の場合は当たり前であるが、閉傾向で太っている場合は、栄養過多である。だから食べる量を落とすとガタガタと痩せていくが、開型の太りは、いくら食べる量を落としても痩せていかないということがまず推測できる。
捻れ傾向があれば、強情に頑張る。それで腰椎三番と四番がくっついてきていることが推測できる。胸椎六番、八番の傾向、心臓が拡がるほど食べているかもしれない、そうすれば四番、それから胃袋に血が集まればしょっちゅう眠るかもしれない。それで後頭部、頸椎二番はどうかと、まず触る前に体を読んで推測する。それから、それだけの異常があるのかないのか今度は触って確かめる。
こういう観察様式をとることによって、相手に余分な負担を与えないで済む。それによって短い時間で操法が終わる。ただ、時間が短ければいいというものではないが、観察がよく出来るようになると、無駄な異常を予め除くことができるので、体中を押さえて確かめた三時間、四時間よりも丁寧に見たのと同じ結果になる。
だからこういう操法の引き算というのは、余分なものを見ないようにする為に非常に大事なことです。そういうためには、相手の言うことは余り聞かないで、むしろ相手の体に聞く。相手の言うことは嘘や誇張が多い。また異常を異常として感じていない場合もある。押さえられて初めて、そこだ、と思う。ひどい場合は、そういう感じすらわからない人もいる。

体癖傾向からの異常の推測
左右型は、逆側の腰椎二番が硬直する。捻れ型は三番、多くは同側が硬直する。開閉型は四番が、前後型は五番が、上下型は一番が硬直する傾向がある。つまり、そこに力が集まる傾向がある。
腰椎一番に異常がある場合は、頸椎二番または三番にも一緒に異常が出る。同じように腰椎二番に異常がある場合は、頸椎三番または四番にも異常が出る。腰椎三番に異常がある場合は、頸椎四番または五番に異常が出る。腰椎三番に異常がある場合は、頸椎四番または五番に異常が出る。腰椎四番に異常がある場合は、頸椎五番または六番に異常が出る。腰椎五番に異常がある場合は、頸椎六番または七番に異常が出る。
歯ぐきが膿むというのは、頸椎四番の捻れである。ここの捻れは、腰椎三番と関連している。だから、歯槽膿漏の人は、腎臓の悪い人がなりやすい、ということが推測できる。ただ、こうした頸椎と腰椎の関連は、その間にある胸椎部に異常がある場合は連動しなくなる。これは、言い換えると、腰椎一番、二番に異常があるのに頸椎三番を押さえても異常が見つからない(鼻の故障もなにもない)という時は、胸椎部に異常があるということが推測できるということである。
胸椎部では、前後型は胸椎三番、四番に、左右型は胸椎六番から八番に、開閉型は胸椎十一番、十二番に連動している。また、胸椎三番は腰椎四番に、胸椎四番は腰椎二番に連動している。
このように、それぞれに連絡先があるので、相手の動作を見て腰を連想し、次に腰を見て頸椎や胸椎との連絡先を連想して、そのうえで指で触って確認する、ということを練習して身に着けていく。始めのうちは難しいが、押さえてみて痛い処を何か所か見つけ出し、連想し、すこしずつ引き算出来るようになってくると、最終的に、故障を起こすような「鈍い処」や、現在の故障個所の異常を感じる「過敏な処」が判ってくるようになる。さらには、これから故障を起こすであろう「弛んだ処」も判ってくる。

丁寧に体を観察する
よく丁寧に調べなさいというと、ここが曲がっています、ここに異常があります、これが硬結です、これが下がってます、ここも悪い、あそこにも過敏がある。などと言い出す人がいますが、そういうのは丁寧な観察とは言えないのです。それは背骨やからだを見物しているだけに過ぎない。
丁寧な観察というのは、関連のないもの、連動していないものを出来る限り少なくして、つまり、いくつもある異常の中から、単なる反射による異常(恥ずかしいと顔が赤くなるというような反射現象)というものを出来るだけ除いていって、相手の現在ある故障の焦点としての処、故障の元になっている麻痺している処を見つけ出すということある。
練習する上で重要なことは、上記に述べたようなさまざまな知識を利用しながら、目の前の相手の体の「これが異常だ」という処を、できるだけ短時間で見つけ出せるようにすることである。
shigeseitai2 1年前